うるさい素人

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英語発音雑記(9) /ʌ/の音に関する誤解を解く(wonder と wander の違いについても)

この雑記では、英語発音に関する私自身の回想や考えなどを「独り言」感覚で綴ります。発音方法を解説することは意図していませんのでご了承ください。

 

どの音に関する話か

今回は、/ʌ/ の音。日本語の「ア」に近い母音。


cup /kʌ́p/、come /kʌ́m/、sun /sʌ́n/、country /kʌ́ntri/、couple /kʌ́pł/、love /lʌ́v/、much /mʌ́tʃ/ などに入っている音。


日本語の「ア」に聞こえる音は複数あるが、この /ʌ/ が「ア」にいちばん近いと言える音。それだけに近い音を出すのは簡単なのだが、しっかり出そうとすると結構厄介な音だと思っている。

 

この音の難しさ

長年発音をやっている僕だが、この音は、意外にも「もっとも苦手」と言っても良いぐらいだ。なぜならば、舌の位置が「中間ぐらい」で「短く発音される音」であることにより「決めにくい」から。

 

ほかの母音の場合、「横いっぱいに広げる」、「アゴを十分落とす」、「唇を思いっきりすぼめる」といった極端な位置を目安にすることができたり、二重母音のようにゆったりした変化があったりする。しかしこの音では、「中間の位置」でありながら「短い」ので、「バシッ」と一発で決めなければいけない。僕としては「その形」がまだ固まり切っていなくて微妙に迷いがあるのだ。

 

それと、僕自身、ずいぶん惑わされてきたのだが、この音に関しては「鵜呑みにすることができない」というか「語弊がある」ような情報が氾濫していると思う。むしろ、「言われている情報のほとんどが要注意」と言っても良いぐらいだ(間違っているという意味ではない)。

 

この音に関連して、よく引き合いに出されるのが、wonder と wander の違い。「これを聞き分けられますか?」みたいな話が多く聞かれるようだ。しかしこれは、冒頭に /w/ が入っていて話が複雑で、純粋に /ʌ/ と /ɑ/ を区別する例題としては向いていない(難しすぎる)と思う。

 

どういう誤解があるか

この音に関する解説には、「たしかにそういう面はあるけど、そこは本質ではないのに」と思うものが多い。一概には言えないが、「結果的に生じる特徴」をいかにも「本質」のように解説しているものが少なくないように思う。

 

僕が、気をつけた方が良いなと思う説明パターンを3つ挙げてみる。

  • 「ア」と「オ」の中間だという説明
  • 喉で発音するという説明
  • シュワー /ə/ とほとんど同じだという説明

 

それぞれに対する僕の見解

この3つの説明に関する僕の考えを書いてみる。

 

「ア」と「オ」の中間だという説明

この音について、「ア」と「オ」の中間だ(あるいは「オ」が少し混じる)という解説を聞くことがある。最近はそれほどでもないが、僕の記憶では、昔はそういう解説がもっと多かったような気がする。僕自身、どこかで習ったようで(最初に発音を習った英語塾ではないと思う)、子供の頃からずっと「ア」と「オ」の中間だという意識があった。しかし、今思うと、これは不思議な解説だと思う。

 

ハッキリ言って、この /ʌ/ の音の「基本形」においては、「オ」に似ているところは、まったくと言って良いほどないはずだ。

 

日本語の「オ」どころか、「ア」よりも、もっと「平べったい音」だと感じている。

 

よく「低い声で英語っぽくカッコ良くしゃべろう」みたいな風潮があるようだけど、そういう視点からすると、むしろ「全然カッコ良くない音」だと、僕は思う。

 

日本語の「ア」より、少しアゴを上げて(口の開きを小さくして)、「舌の中央よりもやや奥」が、少し盛り上がる感じの音。長く音を伸ばすと、なんとも「だらしがない」ような響きがするようなあたりが基本の位置だと思う。そこで短く強めに発音する訳だが、「探しに行く」のではなく「一発で決める」必要がある。パシッと決まれば、それなりに締まった音にはなるが、深みはあまりないと思う。

 

そのような音なのに、なぜ、「ア」と「オ」の中間だとか「オ」に近いなどと言われるのか。

 

誤解を恐れずに言えば、「/ʌ/ の音には2種類ある」ことに原因があるように思う。

 

この音には「基本形」以外の音があるのだ。それは、bulb /bʌ́łb/、result /rızʌ́łt/ など、後にダークLが続く時。

後に続くダークLの影響で、舌の奥の方が下に引っ張られる(この表現は適切かどうかはちょっと自信がないが)ために、低い響きが出る。これにより、/ʌ/ の音が「変化」する。

 

つまり、この低い響きがある音は、この音の本質ではなく、あくまで「変化した音」なのだ。

 

この「変化した音」は、わざわざ練習して「狙って出す」というよりも、後に続くダークLの発音の動作が習得できているならば、筋肉は先行して準備を始めるから、本来は「勝手にそういう変化をするものだ」と思う。


このことに類似した変わり種として love がある。この場合、「/ʌ/ の後ろがダークL」ではなく、「先行する L に /ʌ/ が続く」訳だが、この love を発音する際にも、同じような音の変化が起こることがあるように思う。


これは完全に僕の憶測だが、「歌」などで深い音を出すために、この変化した音で発声するのが好まれる傾向があるのではないだろうか。

 

歌などではなく普通に話す場合も、深みのある音を狙うためなのか、この音になっている人もいるようだ。love 以外にも事例があるかも知れないが、僕のイメージでは、この単語に特有な傾向だと思う。「単語ごとに、発音記号とは違う音になることがある」ので、そういうものかも知れない。

 

どういう背景にせよ、実際に「オ」に近い音にしている人が存在するのは確かだと思う。また、音声学的には「オ」に近くないのに、「そのように聞こえてしまう」という面があるのかも知れない。

 

喉で発音するという説明

ここ何年かで、このような解説が増えたと思う。ネイティブ(アメリカ人)でもこのような解説をしている人がいるので、ちょっと不思議に思っている。「この音の基本」を学ぼうとする場合には、そこじゃないだろう、という気がするのだが。

 

このような解説が多い推定原因の1つは、前述の「後ろにダークLが来た時に音が変化する」ことによるもの。その音は、あくまで「変形した音」なのに、「標準の音」として、過度に一般化してしまっているんじゃないか?という可能性がある。

 

もう1つの推定原因は、/ʌ/ の音は短いから「短く切ろう」とする喉周りの筋肉の動きによる影響なのではないか?というもの。でも、日本語には促音(小さい “つ”)があるので、日本人は喉の所で音を短く切ることに関してはプロ。あまり関係ないかも知れない。

 

原因はわからないが、このような解説に基づいて、喉から深い音を出そうそすることにより、前述のような「オ」に近いニュアンスが出てきてしまうのではないだろうか。僕は、そういう変化はなるべく排除して、まずは基本形である「平べったい音」を習った方が良いように思うのだが。

 

いずれにせよ、/ʌ/ の音に「オ」のニュアンスを入れてしまうことにより、よく言われる wonder /wʌ́ndər/ と wander /wɑ́ndər/ などの区別の難しさに拍車をかけてしまっているのではないかな?という気がする。

 

シュワー /ə/ とほとんど同じだという説明

/ʌ/ と /ə/ は、舌の位置も、短く発音される面でも似ているのは確か。アクセントがない /ʌ/ については、ほとんど変わらないというのは、確かにその通りだと思う。


でも、僕は、別の意味で「性質が違う」と思っている。


/ʌ/ は位置が決まっているのだ。決め打ち。後ろのダークLによって、音が変化する場合でも、舌が一番盛り上がる位置は基本的に変わらないはず。

 

一方で、シュワー /ə/ は、あいまい母音という名の通り、舌の位置は確定していない。前後における位置は中央ぐらいで、どの単語でもほぼ同じだが、高さについては、前後の音(舌の位置)によって変化する(自覚はないが教科書的にはそう言われている)。/ə/ には、「ここだ」というような目標位置があるような感じがない。「勝手に任せておく」ということで「あいまい」なんだと理解している。

 

つまり、/ʌ/ には、舌の位置を「ここだ」と決めようという意識があるのに対し、/ə/ は「なりゆき」。近い音ではあるが、このような意識の違いはあると思う。

 

もう1つ、/ʌ/ にアクセントがある場合には、「短いながらも音程の変化がある」ことは、忘れてはならないことだと思う。一般に、母音にアクセントがあると、その音の音程が「一度上がって、下がる」という変化がある。母音の音素単独の場合や、1音節の場合は、必ずそうなると思う。音節が多い場合にはその傾向は薄れるが、ゆっくり発音する場合には、少し音程の変化がある。このような音程の変化は、この短い /ʌ́/ にもあるのだ。弱くて短い /ə/ にはそのようなことは起こらない。そういう違いはある。


wonder と wander の違いについて

wonder /wʌ́ndər/ と wander /wɑ́ndər/ の聞き分けは難しいと思う。

 

/ɑ/ の音については、世の中の解説のとおりで良いと思うが、/ʌ/ の音については注意が必要な気がする。

 

/ʌ/ の音を、僕が基本形だと思っている「平べったい音」に徹するようにすれば、少しは違いがハッキリするように思う。


しかしそれにしても、これらの単語では、冒頭に w がついていることから、話がややこしい。この2つの単語の聞き分けにおいては、母音そのものの違いだけじゃなくて、「w からの変化の具合が異なる」ということが影響してくるからだ。

 

よって、w が絡む wonder と wander ではなくて、まずは、母音部分の /ʌ/ と /ɑ/ の違いを聞き分けられるようになった方が良いと思う。

 

そのためには、hut /hʌ́t/ と hot /hɑ́t/ など、シンプルな単語で違いを覚えた方が良いと思う。もう少し長い単語ならば、color /kʌ́lər/ と collar /kɑ́lər/ などの方が良いように思う。

 

wonder と wander は、クイズ(テスト)には良いが、基本を学ぶには向かないように思う(「わざわざ難しくする」ということで、よくあることだが)。

 

まとめ

この /ʌ/ の音については、情報が少し変になっていて、基本的な音が知られていなさすぎると思う。「喉から出る深い音」ではなく「意外と平べったい音」だと思って、ネイティブの音をよく聞いてもらえば、違いがわかってもらえるかも知れない。

 

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